トップページ > 環境レポート > 第92回「大井埠頭の地先に誕生した生きものたちのオアシスを守り、貴重な自然を未来に残す(大田区、東京都立東京港野鳥公園)」

2018.01.16

第92回「大井埠頭の地先に誕生した生きものたちのオアシスを守り、貴重な自然を未来に残す(大田区、東京都立東京港野鳥公園)」

絶滅危惧種コアジサシが繁殖しはじめたことをきっかけに、野鳥公園がつくられる ──東京港野鳥公園のあゆみ──

 観察会の間、上空には轟音を響かせる航空機がひっきりなしに飛んでいた。
 地図を見ると、公園の南東に羽田空港がある。北には環状七号線が、西には湾岸道路が通り、巨大なトラックが爆音を立てて走っている。南は東京都中央卸売市場大田市場、水路をはさんだ東は巨大な物流センターや倉庫が建ち並ぶ。
 この公園は都心の、物流のまっただ中につくられているのだ。
 しかし、昭和の初めまで、あたり一帯は遠浅の海であった。江戸時代から豊かな漁場として知られ、海苔の養殖も盛んだった。その豊かな干潟や浅瀬が、経済成長とともに埋め立てられてすっかり姿を変えたのだ。
 公園の場所は、昭和39(1964)年の東京オリンピックの後に埋立が始まり、昭和50年代まで土砂などを積んだトラックが行き交っていた。
 埋立が終わると造成地の地盤が落ちついて建物が建てられるようになるのを待つのだが、その間に、静かになった埋立地には草が生え、池ができて魚やカニ、昆虫などがすみはじめた。すると、餌を求めて野鳥たちが集まり、野鳥の姿を求めて人々が集まるようになった。
 ボランティアグループの田中さんたちは、現在の西淡水池あたりに池ができて鳥が来始めたころから、ここで自然観察を始めたそうである。
 その後、埋立地でコアジサシなど貴重な渡り鳥が営巣していることが確認され、渡り鳥の中継地・生息地としての東京湾の重要性が知られるようになった。これをきっかけに、地元の人たちの働きかけもあり、東京都はここを野鳥保護区として整備することを決定。昭和53(1978)年、大井第7埠頭公園が完成し、平成元年(1989)には、公園面積を現在の24.9ヘクタールに拡大、東京港野鳥公園としてオープンした。
 平成12年には、渡り性水鳥とその生息地を保全することを目的にした「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ」の参加湿地となり、シギ・チドリ類の重要な生息地であることが国際的にも認められている。
 シギ・チドリ類だけでなく、比較的珍しいカンムリカイツブリのような冬鳥の飛来地でもあり、オオタカやハイタカなどの猛禽類も小鳥たちをねらってここにやってくる。

双眼鏡で干潟の奥の野鳥を観察。

双眼鏡で干潟の奥の野鳥を観察。

植物を手に解説するNPO法人 東京港グリーンボランティア理事の田中良平さん。

植物を手に解説するNPO法人 東京港グリーンボランティア理事の田中良平さん。

子どもにも大人にも自然に触れる貴重な場を提供

 高度経済成長期には、干潟や河原、原っぱのような場所は、ほとんど何も生産しない無駄な土地だと考えられ、開発の対象とされてきた。
 しかし、現在では干潟の生きものやヨシ原が水質の浄化に大きな役割を果たしていることが知られている。アサリやカキ、ゴカイなどの動物が水中の有機物を分解して吸収し、その動物が体外に出したチッ素などをアマモやノリなどの海草や海藻が吸収して生長する。
 生きものによる物質の循環が水質を浄化し、同時に人を含めた生きものを育む環境を守っているのである【1】。観察会では干潟のマガキが海水をきれいにしているところを実験で見せることもあるという。
 公園の西淡水池のある一角では森や林の生きものを観察することができる。田んぼと畑もあり、田んぼを使った米づくり体験も行われていて、参加者が抽選になるほど人気があるという。観察会に同行していたボランティアの方は、
 「今は親も米づくりなどを経験していないので、いろいろ体験させたいと子どもを連れてこられる方が多いですね」と話してくださった。
 この日の観察会には、足元もおぼつかないような幼い子どもたちもたくさん参加していた。小さな男の子が、オオカマキリを手に乗せたまま小走りに歩いて行く。お母さんに話を伺うと、ふだん自然に触れることが少ないので、自然に触れさせてやりたいと思って連れてきたという。
 ボーイスカウトの活動で大田区大森から来たという若いお母さんは、
 「潮入りの観察会は今日が始めてですが、西淡水池にはよくきて、トンボやカエルをつかまえたりしています。子どもたちに思いきり走りまわらせてやりたいので、こういう場所はうれしいですね」という。

早速、どんぐりを見つけた。

早速、どんぐりを見つけた。

ジョロウグモが秋の日を浴びながら、巣のなかでえものを待っている。

ジョロウグモが秋の日を浴びながら、巣のなかでえものを待っている。

木に絡まったつるに実ったカラスウリ。赤い色が緑に映える。

木に絡まったつるに実ったカラスウリ。赤い色が緑に映える。

木の枝についていたカマキリの卵のうを発見。

木の枝についていたカマキリの卵のうを発見。

単眼の望遠鏡を覗いて、野鳥の観察。

単眼の望遠鏡を覗いて、野鳥の観察。

東観察広場。双眼鏡が据えてあり、水面で休息するカモたちの姿が観察できた。

東観察広場。双眼鏡が据えてあり、水面で休息するカモたちの姿が観察できた。

 野鳥公園の整備事業は、埋立と開発によって一度は失われかけた自然を保護区の設定でかろうじてつなぎとめようとするものだが、同時に、都会で暮らす人々に自然に触れる憩い場をもたらすことにもつながっている。
 また、豊かな自然に触れて大らかに育ってほしいと願う都会暮らしの親たちにとっては、自然に触れるチャンスを子どもたちに与えてやれる貴重な場所なのである。
 子たちの未来に豊かな自然を残してやりたい、そんな人々の願いを形にするため、東京港野鳥公園の挑戦は続く。

ネイチャーセンターの地階から外に出て、干潟の上を歩けるようになっている。

ネイチャーセンターの地階から外に出て、干潟の上を歩けるようになっている。

干潟にできたハサミシャコエビの巣あな。あなのまわりに泥が高く積みあげられている。

干潟にできたハサミシャコエビの巣あな。あなのまわりに泥が高く積みあげられている。

このページの先頭へ

本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。