トップページ > 環境レポート > 第66回「再生可能エネルギーの活用には、まず太陽熱を! ~太陽熱温水器模型キットと講師養成講座で、太陽熱の活用を普及(NPO法人エコロジー夢企画)」
2015.12.03
太陽の熱が当たって温まった水は、管の中を上にあがっていく(出前授業で使っている三井さんのスライドより)。
「これって、なんだかわかる?」
屋根に載った太陽熱温水器の写真を見せながら、NPO法人エコロジー夢企画の理事長・三井元子さんが子どもたちに問いかける。
「太陽の光を集める!」と子どもたちから声が上がる。
「集めて何をするのかな?」と、三井さん。
「電気にする!!」と、子どもたちから自信満々の声が響く。
「残念! 電気を作っているわけじゃないんです。お日様があがってくると、ポカポカ温かいよね。太陽から届いた熱です。ここ(太陽熱温水器)に太陽の熱がくると、どうなるかな? ここの管の中には水道から引いてきたお水がいっぱい入っているんです。そこに太陽の熱が当たると、中の水が温まっていきます。そうすると、温まった水は上へ上へとあがっていく性質があるんですね。お風呂でも、下の方はぬるいけど、上の方は温かいという経験をしたことない?(ある!) あるよね。お水は、温まると上の方にあがっていくのね。そうして温まったお湯から順番に使っていきますが、中の湯が減ってくると、水道水が足されるようになっているので、いつもこの中は満杯にお水が入っているんです。このお湯を温めるときに、電気を使っているかな?(使ってない!) ガスは?(使ってない!)。そうなんです。今日みたいに天気が悪いとあまり温度は上がらないけど、それでも水道水よりは10℃くらいは温かくなります。夏のカンカン照りの日だったら、この中のお湯は60℃くらいにまであがります。みんな、お風呂って、42℃くらいで入るでしょ。だから60℃のお湯ができれば熱いくらいなんです。ガスも電気も使わないのに、お風呂に入れるんだよ!」
驚きと納得に満ちた子どもたちの表情が広がる。
2015年2月、足立区立弥生小学校では、理数教育地区公開講座の一環として、第3・4年生の理科で太陽熱の力について学ぶ授業が実施された。3年生理科の後期単元「かげのでき方と太陽の光」「光のせいしつ(日光で調べよう)」、4年生理科の後期単元「一日の気温の変化」「温度とものの変化・ものの温まり方」に沿って企画したものだ。授業を担当したのは、「NPO法人エコロジー夢企画」及び同会が事務局を務める「ぐるっ都地球温暖化対策地域協議会」。3・4年生総勢200人ほどを前に、NPOの理事長で協議会会長を兼任する三井元子さんが話をした。
太陽熱温水器の仕組みについて一通り説明した後は、同会が開発した太陽熱温水器模型キットの組み立て工作をする。できた模型を校庭の日の当たるところに設置して、温度変化の状況を実測するわけだ。屋根の上に載っている太陽熱温水器と同じ原理で模型の中の水がお湯に変わっていくのを体験することで、太陽熱利用の仕組みについて理解してもらう。
あいにくの曇り空だったが、模型キットをしばらく設置したあと、お昼休みを挟んで5時間目に水温を測ると、8~10℃ほど温度があがっていた。雨や曇りだとそれほど劇的に温度があがってはくれないが、逆に「今度晴れた日に担任の先生方ともう一度やってみてね」などと、もう1度試してもらう動機づけができると三井さんは言う。
「模型キットの工作に思ったより時間がかかってお昼休みに食い込んでしまったのですが、5時間目にはびしっと戻ってきたんですよ。“授業が長引いても集中力はまったく途切れなかった”と校長先生もびっくりしちゃって、“絶対遅れちゃだめだぞとは言ったんだけど、子どもたちも好奇心いっぱいで、やりたかったんだね”とおっしゃっていたのが印象的でした」と、三井さん。
子どもたちからも、数々の感想が寄せられた。一部を抜粋して紹介したい。
「こんな簡単に太陽熱温水器が作れるなんてすごいと思いました。なので、もっと天気のいい日にやって、どのくらいの温度か確かめたいです。あとこのことをやって、理科がすきになり、そのほかのことやこのことについても調べたい」(3年生)
「日光にあてると。水が温ったかくなってビニールぶくろをかぶせた所がくもった事がわかりました。それほど日光があたっていることがわかりました」(3年生)
「手作りで作れて実験までできるなんて知りませんでした。今度は家でやってみたいです」(3年生)
「ぼくは、なぜ黒い所に、日光を当てると、水があったかくなるのかふしぎでした。ぼくは、屋ねなどに、ついているのは、CMで、知っていたけど、こんなにすごいとは、しりませんでした。すごく役立っているんだなと思います」(3年生)
「水をすてる時に黒い金ぞく板の所が温かくなっていて、水をさわったらさい初よりも温かくなっていたことがわかりました。自分でエネルギーを作れることがわかりました」(4年生)
「太陽の光を生かして生活すれば、将来の自分のためにすこしでもお金を残せるということがわかった」(4年生)
体育館の中で、模型キットづくりの工作(足立区立弥生小学校の出前授業にて)。
校庭に出て、完成した模型キットを並べる(足立区立弥生小学校の出前授業にて)。
NPO法人エコロジー夢企画が発足したのは、2003年のこと。前身の任意団体「せせらぎグループ」と「足立環境ネットちえのわ」の活動を引き継いで、NPO法人化した。河川環境や水生生物をメインにした生物調査や観察会などを主に行っており、2003年には区の緊急雇用対策事業に応募して足立区内環境デジタルマップ【1】を制作、2004年からは区立公園にある屋外プールで毎年プール開きに合わせてヤゴ救出作戦【2】を実施している。こうした活動は現在も同会の活動の柱として継続しているが、それとともに最近特に力を入れているのが、太陽熱の活用に向けた普及・啓発の活動だ。
再生可能エネルギーに関しては、区が毎年開催している環境フェアの実行委員会に参加して、風力発電の第一人者の先生を呼んだ講演会を開催したり、太陽光発電のワークショップを企画したりと、主に啓発イベントの提案をしてきた。そうしたなか、2007年に東京都主催の太陽熱セミナーに参加したのがひとつのきっかけとなって、太陽熱の普及に取り組むことになった。
「あ、なんだ、こんな単純なことを忘れていた!と思ったのです。再生可能エネルギーへの転換が大事と言いますが、電気を作る以前に、熱として利用するものについては太陽の熱を活用すれば、作り出さなくてはならない電気を減らすことができますよね。その上で太陽光発電をすればいいと思うのですが、今はオール電化にして、電気でお湯を沸かしているわけでしょ。効率悪いなということで、もっと太陽熱を普及したいと思ったのです」
太陽熱の利点は、いくつか挙げられる。まずは、安価なこと。一般に、太陽光発電設備を設置する場合と比べて、約3分の1の費用と面積で設置できる。それでいながら、CO2削減効果は太陽光発電の4倍にもなる。東京のように電信柱などが乱立している都市部だと、太陽光発電の効率は落ちてしまうが、太陽熱利用なら電信柱の影くらいではそれほど効率は落ちない。都会に向いている設備で、庶民向けの設備でもある。
「太陽光発電の設備だと、百数十万円からのお金をかけてCO2削減に貢献するということになるのですが、太陽熱温水器なら数十万円で設置できます。そのことを皆さん全然気が付いていないんじゃないですかね。太陽熱温水器というと、“あ、昔、田舎にあったよね”とか“熱いお湯が出て大変だった”と、過去のもののようにおっしゃいます。今でもあるとは思っていないんですよ。環境をやっている仲間でさえも、“昔あった太陽熱温水器が進化して太陽光発電になったんだと思っていた”、なんて言うのです」
太陽熱への理解がなかなか進んでいないのが残念という三井さんだ。
都のセミナーに参加した翌年から、区の環境フェアでも、あるメーカーに協力してもらって太陽熱温水器の実機展示をはじめた。翌年は別のメーカーから、環境省登録の地球温暖化対策地域協議会の設立について相談される。曰く、地域協議会の設立にはNPOなど多様な主体の参加が必要で、企業だけではできないのでいっしょに設立しないかという話だった。
「私たちも、特定の業者さんばかり応援するわけにもいかないしどうしようと、ちょうど考えていたところだったのです。しかも、地域協議会を通じて環境省に申請すれば、太陽熱の設備導入に3分の1補助もつくのです。太陽熱のメーカーや建築士さんなどに声をかけて地域協議会を設立して、3分の1補助を活用した太陽熱温水器導入の支援を行い、初年度には関東の10軒の家に取り付けることができました」
当初、太陽熱メーカーだけでも6メーカーが参加。そうして設立したのが、「ぐるっ都地球温暖化対策地域協議会」。名前の「ぐるっ都」は、“東京都のまわりをぐるっと”の意味を込めたネーミングだった。
このほか、さまざまなイベントに参加して、太陽熱温水器の展示をしたり、実際につくったお湯で「足湯」体験をしてもらったりといった活動をしていった。
環境省の民生用機器導入補助事業によって設置した太陽熱温水器(東京都足立区内に竣工)。
2009年からは、あだち地球環境フェアにて、太陽熱温水器の実物展示などでアピール。
2009年10月の「綾瀬村120周年と新撰組祭」では、太陽熱による足湯を出展。来場者の人気を博した。
転機となったのは、2011年の311東日本大震災だった。被災地に自然エネルギーを届けようという支援活動「つながり・ぬくもりプロジェクト」が立ち上がったのに合わせて、三井さんたちも太陽熱温水器の設置支援によって参加することにした。
「最初は太陽光発電と木質バイオマスの2本立てで支援活動を行うということで始まったのですが、私たちも太陽熱で支援しますからということで、3本柱の活動になったのです。震災翌月の4月4日に記者発表し、支援が始まりました。私たちは、支援活動を始めるに当たって“被災地に太陽熱温水器を寄贈したい、ついては10万円で提供してくれるメーカーはありませんか?”と業界団体に問い合わせたんです。7メーカーから合計550台提供可能というお返事をいただきましたので、機械を10万円で購入、配管は別途購入し、設置作業は現地雇用で行うことにして、1件当たり30万円ほどの予算を立てて、一般からの寄付を募って、現地入りしました。また日本財団や三井物産環境基金などにも補助金申請をしました」
震災の発生直後でガスも電気もきていなかった。太陽熱温水器を設置したことで、お湯が使えるようになった。晴天に恵まれれば、東北でも60℃のお湯ができてお風呂にも使えるし、曇っていても水道水より10℃ほどは上がる。冷たい水で鍋や食器を洗っていた炊き出しボランティアにとっても、少しは手にやさしい。
つながり・ぬくもりプロジェクトの代表的な取り組みの一つになったのが、宮城県気仙郡住田町の仮設住宅全110棟に設置した太陽熱温水器だった。内陸の山林地帯に位置する林業のまち・住田町では、町独自の予算を立てて、いち早く木造の仮設住宅を建設し、被災者に避難の場を提供することを決めていた。その建設木材も、同町の森林から調達したFSC認証【3】木材を使うという意欲的な取り組みだ。プロジェクトでは、住田町の被災地支援の取り組みを知って、自然エネルギー供給の支援をすることになった。
小さな木造1戸建ての仮設住宅だから、太陽光発電のパネルは載らなかった。しかし、太陽熱温水器なら1台載せればその家のガス代を年間で半分くらい節約できる。ただ、寄付でやっている活動だったから、110棟すべてに載せられるか確約はできなかった。
「町長さんにお話しすると、“寄付なんだから、途中でダメならそれでも構わないからぜひやってほしい”とおっしゃっていただけたので、取り組みを始めました。最終的には、ここの仮設住宅に関しては三井物産環境基金が全額を補助してくれることになり、設置後のアンケート調査やフォローアップの支援活動など、2年間の活動を行うことができました。住田町は冬には氷点下になるため、配管が凍らないように、夜間にはポタポタと水を垂らしておくというような習慣があるのですが、陸前高田市とか大船渡市から住田町に避難してきた方たちの元の住まいでは、冬に配管が凍る経験はなかったそうです。そんな日常的なメンテナンスなども含めて、講習会や座談会を行うなど、手探りの中での支援活動でした」
もっと寒い地域の場合、太陽熱温水器自体に断熱材を巻いたり、ヒーターバンドをつけたりして凍らないようにする必要もあるが、住田町はそれほど寒くはならない。「今夜はマイナス3℃まで下がるよ」といった日の夜に、配管部分に入っている水20リットルほどを捨てておけば、翌朝、晴れればまた水を通してそのまま使える。タンクの中の250リットル全部を捨てる必要はないし、冬中抜いておく必要もない。夜だけ、一部の水を抜けばよい。
こうした作業を、かつて風呂番は子どもが担当していたように、子どもたちにやらせてみたらどうだろうと提案して、親子エネルギー教室を企画した。そんな活動が発展して、地元小学校の3年生の授業支援につながり、現在もまだ続いているのだ。
東日本大震災の被災地支援活動「つながり・ぬくもりプロジェクト」に参画。
住田町の仮設住宅110棟に太陽熱温水器を寄贈、現地雇用で設置した。(三井物産環境基金補助)。
本事業は、公益財団法人 東京都区市町村振興協会からの助成で実施しております。
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