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2015.12.03

第66回「再生可能エネルギーの活用には、まず太陽熱を! ~太陽熱温水器模型キットと講師養成講座で、太陽熱の活用を普及(NPO法人エコロジー夢企画)」

太陽熱温水模型キットの制作秘話 ~被災地支援活動をしながら、太陽熱についてわかりやすく教えられる教材の必要性を痛感

 「この被災地支援で、宮城県石巻市・東松島市・気仙沼市、岩手県遠野市、福島県新地町など、いろいろなところに寄贈・設置しました。それでいろいろな方にお話しをさせていただく機会があったのですが、大人でさえ、太陽光発電と太陽熱利用がごちゃ混ぜになっていることが分かりました。ずっと太陽熱の話をしているのに、最後になって“で、結局、何ワットできるんですか?”と聞かれたりすることが多々ありました。ああ、日本人は理科からやり直さないとダメなんだと思ったのです」
 そんな経験がもとになって、太陽熱温水器の原理や仕組みをわかりやすく伝えるための教材として、模型キットを構想するようになった。メーカーの技術者と相談しながら開発、改良し、これを使って教え始めることになった。

 素材は、ボール紙製の本体・タンク部分・フタ部分、曲がるタイプのストロー2本、集熱板として使う黒く塗った金属板(鉄板)、断熱用の発泡スチロール板2ピース、そして水を入れるためのビニール袋。  本体およびタンクの組み立てでは、紙を折り目に合わせて組み立てていくと、切り込みの入った平面の紙から立体の箱ができあがる。ちょうどお菓子の箱などの立体容器の作り方にも似た工作だ。その箱の中に、連結した2本のストローをビニール袋の中に入れて設置する。ストローの連結では、一方のストローの先に切り込みを入れて、差し込む。集熱板によって熱が蓄積されて中の水が温まると、連結したストローの隙間から湯が噴き出してくると同時に、タンク側に伸びる反対側の先から冷たい水が吸い込まれていく。そうして、タンクの中で循環しながら効率的に水温があがっていく。本物の太陽熱温水器と同じ仕組みで水を循環させてお湯をつくるわけだ。
 本物の太陽熱温水器では、温まったお湯は比重が軽いからタンク上部に溜まる。溜まったお湯から順番に使っていって、中の水量が減っていくと、水道とつながった配管の弁が開いて、自動的に給水される。水の補充や循環に電動ポンプは使っていないし、お湯の使用時にも屋根の上からの位置エネルギーによって蛇口まで引けるため、電力を一切必要としないシステムができる。
 「宮城県石巻市北上町十三浜の被災地支援に行った時は、水道水も来ていませんでしたから、温水器のフタを開けて、沢から汲んできた水を入れて使ってもらいました。ですからどんな状況でも使えて、すごく便利なんです。仮設住宅110戸の屋根の上に太陽熱温水器を寄贈した岩手県住田町の小学校で教えた時、“みんなこれ知っている?”と聞くと、“あ、どこかで見たことがある!”と言ってくれました。“屋根の上に載っているでしょう”というと、“あ、そうだ! 見たことある! あそこにあった!!”と気付いてくれました。それで、今からその模型を作るんだよと言う話をして、できた模型をしばらく外に置いて、温度があがっていくのを温度計で観察しました。そうしたら授業の最後に、“わかった! じゃあ、これの大きいのを作ればいいんだ!!”って言ってくれた子がいたんですよ」
 三井さんは被災地での授業支援を思い出しながら目を細める。仕組みさえ知っていれば、災害時にも、子どもたちがお湯を供給できるようになる。材料も代わりになるものを自分たちで集めてきて工夫すればよい。本物の製品では、集熱板には効率のよい選択吸収膜を使っているが、黒く塗った鉄板でも60℃以上のお湯ができる。文明の利器がなくても自分たちの手で暖をとれるか否か、太陽熱利用の仕組みを知っているかいないかが、いざというときの大きな違いとなるわけだ。

NPO法人エコロジー夢企画が開発した、太陽熱温水器模型キット。身の回りで簡単に手に入る材料から、お湯ができることを体験する。
NPO法人エコロジー夢企画が開発した、太陽熱温水器模型キット。身の回りで簡単に手に入る材料から、お湯ができることを体験する。

子どもたちが通学路で見ていた仮設住宅に載せた太陽熱温水器。「太陽光発電かな?」と思っていたらしい。
子どもたちが通学路で見ていた仮設住宅に載せた太陽熱温水器。「太陽光発電かな?」と思っていたらしい。


太陽熱温水器の農業利用 ~エコベリーの開発

 仮設住宅に載せた太陽熱温水器は、将来、仮設住宅の撤去に伴ってその処分が問題となる。そこで、これらを二次利用した、農業への活用に取り組んだのが、エコベリー(ecoberry)プロジェクトだ。
 宮城県の東南端の太平洋沿岸に位置する宮城県亘理郡山元町は、震災前には多数のイチゴ農家がハウス栽培をしていたが、津波によってすべて流されてしまっていた。
 「被災したイチゴ農家の4人が立ち上がって、共同で2棟のハウス温室を造りました。私たちは、太陽熱温水器9台を寄贈して、2棟のハウスのうち1棟に導入して、比較検証の実証試験に協力してもらえることになったのです。今、イチゴは冬場が売り時ですから、温室栽培しています。苗床の下に16℃の温水を這わせるのですが、その温水を作るためにボイラーを使っています。そこに太陽熱温水器を導入することで、ボイラー燃料(A重油)の節約につなげようというわけです」
 今回の実証試験では、太陽熱によって直接水を温めて、自然対流で循環させる自然循環型の温水器を導入している。安価にできる機器を導入することで、まわりの農家にも普及していこうというねらいだ。
 「今回の方式では、ボイラーのシステムが出来あがっている温室への寄贈だったので、太陽熱で温めたお湯を直接ボイラーに入れるのではなく、苗床を回って、徐々にぬるくなってボイラーに戻ってきた水を、太陽熱温水器で温めたお湯と間接接触させて温度を上げる熱交換システムを初めて作り上げました。ボイラーに戻っていく水の温度をあげることで、ボイラーの重油使用量を節約する方式です。農業用熱温水システム『ecoberry』と命名し、いちご狩りに来たお客さんにもわかるように看板も設置しました」
 イチゴ農家への支援は、ドイツ人家族や㈱ラッシュジャパンからの寄付を使わせて頂きました。

海岸近くの山元町は、津波で300以上あったイチゴ農家が壊滅した。
海岸近くの山元町は、津波で300以上あったイチゴ農家が壊滅した。

宮城県亘理郡山元町のイチゴ農家支援。苗床の湯を自然循環型太陽熱温水器で供給。
宮城県亘理郡山元町のイチゴ農家支援。苗床の湯を自然循環型太陽熱温水器で供給。


仮設住宅等で使用した太陽熱温水器の二次利用を進めるために開発した、農業用熱温水システム「ecoberry」の仕組み。
仮設住宅等で使用した太陽熱温水器の二次利用を進めるために開発した、農業用熱温水システム「ecoberry」の仕組み。

新しいハウス横に設置した太陽熱温水器システムの前で看板を寄贈。
新しいハウス横に設置した太陽熱温水器システムの前で看板を寄贈。

講師養成講座を展開 ~模型キットを使った環境教育を広めていく

講師養成講座のチラシ

講師養成講座のチラシ
※クリックで拡大表示します

 現在、会で最も力を入れているのが、模型キットを使った授業支援だが、会だけでは人手が足りず、大きな広がりが実現しない。そこで、地域で太陽熱活用の普及・啓発を担う人材を育てることを目的に、2014年から講師養成講座を開催している。修了者には講師認定証も発行し、すでに56名の講師が登録されている。
 講座では、三井さんが模型キットの組み立て方を実演しながら、教え方や授業の進め方について教えるのに加えて、ぐるっ都地球温暖化対策地域協議会に加盟しているメーカーの協力を得て、『世界の太陽熱利用』および『太陽熱利用の実際と仕組み』について講義している。受講者が講師として教えるようになったときに、機器に関する質問をされてもきちんと答えられるようになってもらうためだ。
 「現在講師は、東京都、千葉県、栃木県、宮城県、宮崎県に誕生し、合計56名です。宮崎県では、宮崎大学の金子先生という熱を専門にしている先生が、うちのホームページで模型キットのことを知ったといってご連絡いただいたのです。最初は試してみたいと2個の注文があって、その後、夏休みに地域で子どもたち対象のイベントを開催するからと50個ほどの注文がありました。ところが、夏休み明けに、“やっぱり来年は講師養成講座を受けてからやります”と言ってくださったので、宮崎県で講師養成講座を開催したのです。宮崎県環境情報センターと共催で開催してくださったので、地域のエコリーダーさんも集まってくれました。私たちも、ちょうどこの年は足立区の環境基金をもらってリニューアル版を制作していましたから、講師になった方たちに20個ずつプレゼントし、普及していただくことにしました」
 今年(2015年)は、宇都宮市の講師が、夏に2会場で親子教室を開催している。宮崎県では11月に開催された。徐々に広がりを見せてきているが、「太陽熱エネルギー利用は、太陽光発電の4~5倍の二酸化炭素排出削減効果があるので、これからの温暖化防止対策にとって重要です。小学校3年生の副教材として、先生たちが使いこなしてくれることが目標です」と三井さんは話す。

一連の活動が評価されて、NPO法人エコロジー夢企画では、2013年度の地球温暖化防止活動環境大臣賞を受賞。
一連の活動が評価されて、NPO法人エコロジー夢企画では、2013年度の地球温暖化防止活動環境大臣賞を受賞。

2014年1月24日に、環境大臣受賞記念シンポジウムを開催した。
2014年1月24日に、環境大臣受賞記念シンポジウムを開催した。

話を伺った、NPO法人エコロジー夢企画・理事長の三井元子さん。
話を伺った、NPO法人エコロジー夢企画・理事長の三井元子さん。


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