トップページ > エコアカデミー一覧 > 第3回 電気の未来~スマートグリッドがつくる新しい地域・社会システム
-家庭用の太陽光発電やスマート家電、ハイブリッド自動車や電気自動車などへ今すぐにシフトするには、各家庭での費用負担を考えると、足踏みしてしまう人も多いのではないでしょうか-
昨年、関東、関西地域で、スマートコミュニティには、どのようなメリットがあるのか説明し、導入の意向を確認するというアンケートを実施してみました。 結果として、ほとんどの人が、太陽光発電パネルや電気自動車を導入することで、低炭素で快適な生活ができるとの認識がありました。しかしながら、追加的な費用を負担してまで設備投資をするという人は2割程度で、6~7割の人は追加費用の負担がなければ導入したいという意向でした。
太陽光発電パネルも、最初はコストが高いですが、普及していく段階で需要が安定すれば、価格が安くなります。また、電気自動車も充電スタンドの準備など、社会インフラが整備されれば、さらに需要が高まります。社会的に費用を負担する、例えば自治体が整備する部分と、各家庭が機器を準備する部分があり、それらをうまく連携することが大切だと思います。
-ニーズの高まりと、受け皿のバランスが取れるようにしていく必要があるのですね。 かつて、インターネットの普及も、ニーズと受け皿の双方でのバランスのもと、一気に広がりをみせましたね-
そうですね。まさに、スマートグリッドは、第二のインターネットと言われています。かつて通信インフラはNTTグループが全国に整備した上で、次の事業者の参入が成立したというステップを踏んだように、電気についても、電力会社が配電線までを整備しており、その先を各家庭につなぐという、残るはラストワンマイルの状況です。まさにここ数年で、整備されていくと、普及が加速するのではないでしょうか。
また、インターネットと電力情報通信とを組み合わせることで、家電製品のプラグをコンセントに差し込めばインターネットに接続するというスマート家電が実現します。普及すると、人を介さずに、気温や電力供給に応じて、例えばエアコンの設定温度を調整するなど、エネルギーを無駄なく効率的に利用できるようになります。
-SF映画に見る未来の暮らしのようですね-
電気自動車の電力インフラとしての活用イメージ
(出典:経済産業省:リーフレット「新しい街づくりとしてのスマートコミュニティ」より(注6))
そうですね、未来と言えば、電気自動車の活用についての研究で、大変興味深いものがあります。電気自動車は、言い換えれば動く蓄電池です。この特性を生かすことで、いろいろな場所で、電気の需要と供給のバランスをとる便利なツールとなりえます。電気自動車が普及すれば、例えば、ある地域で、各家庭の電気自動車が搭載するバッテリーの数パーセントを、それぞれの車からかき集めると、その地域の発電所1個分くらいの電力をまかなうポテンシャルがあります。
また、周波数が不安定な太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを、まずは、電気自動車が電圧を調整しながら充電することで、電気の周波数を安定化させることができます。通常、車は乗らない限り90%以上は駐車している状態で、蓄電池として活用すれば、再生可能エネルギーを導入する促進要因になる可能性も期待できます。わざわざ、住宅に定置用の蓄電池を整備するまでもなく、車を蓄電池として有効活用できます。しかし、これも、スマートグリッドによる情報のやり取りが不可欠なのです。
-電気とIT(情報通信)で、社会インフラと家庭が、まるで血管と神経のように有機的につながっていくようなイメージですね-
そうですね、ラストワンマイルの部分は、電力会社が独自にやるのか、通信会社が通信を提供するか、あるいは無線を使うなど、家庭との接続が必要になります。ここが普及しないと、スマートグリッドの実現はありません。
スマートグリッドがもたらす世界は、企業、電力会社、自治体、末端で使う一人ひとりの生活に、大きな変化をもたらします。家電がインターネットとつながることで、電気の使い方からライフログに至るまで、その人の暮らし方を追求したサービスを提供することができるようになります。産業にとっては、そのような情報はより良い製品やサービスを提供する上で、貴重な情報源となり、またビジネスチャンスとなります。去年から経済産業省の審議会でも、スマートグリットから得られる情報の規制や解放について議論されているところです。
低炭素社会の実現に向け、スマートグリッドの導入による新しい社会インフラの整備、スマートコミュニティによる新しいまちづくりが進められ、蓄電池やデマンドレスポンスの活用など、供給側と需要側で双方向の情報共有を通じた連携がますます重要となります。このためには、スマートグリッドについて供給側からの十分な説明、そして需要側の理解による、信頼関係の構築がもっとも大切なステップであると言えるでしょう。
―インタビューを終えて―
浅野先生が、電気に関心を持ったのは学生時代とのことで、当時は大学も研究機関も供給側の研究が中心で、いかに電気のコストを抑え、安定的に供給するかというテーマが主流で、かなり深い研究が行われていたそうです。しかし、先生は、これからは電気を使う方、需要側の研究が必要であることに気がついたそうです。これまで、電力会社は一方向に、均一に電気を供給し、みんな同じ料金が当たり前、しかし視点を変えて、電気をニーズに合わせて供給することで社会的なコストを抑え、環境への負荷も軽減できるのではと考え、実験し、可能性を見出すことができたそうです。
IT化というと、人の顔が見えなくなるような先入観がありましたが、先生のお話の中でユーザーの立場にたった視点をもつこと、また、様々な主体との連携の重要性など、新しい社会づくりにも、人と人とのつながりの大切さが不可欠であることを再認識しました。
インタビュアー 峯岸律子(みねぎしりつこ)
環境コミュニケーション・プランナー。エコをテーマに、人と人、人と技術を繋げるサポートを実践。
技術士(建設部門、日本技術士会倫理委員会)、環境カウンセラー、千葉大学園芸学部非常勤講師。
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