トップページ > エコアカデミー一覧 > 第4回 カーボン・オフセットでつなぐ都市と森林
―カーボン・オフセットを介して、都市と地方の間でコベネフィットの関係をつくるという取り組みですが、今後のカーボン・オフセットにどのような期待がありますか。―
「緑を増やす」活動からスタートした私たちの取り組みということもあり、森林吸収J-VERの可能性に大きな期待があります。
森林吸収J-VERは、対外的な側面では、日本の京都議定書第一約束期間でのマイナス6%のうち、3.8%を森林で吸収するという国際公約の実現のためですが、むしろ国内的な側面として、山村再生のきっかけづくりになると思っています。
現在どの地方でも林業は衰退し、戦後に植林された人工林は、間伐整備も遅れています。林業が産業の中心だった山間部の集落などは、雇用がないために、地元に若者が残れず、私がよく行く、秋田県の上小阿仁村は、昨年の国勢調査で44%が65歳以上の高齢者というのが現実です。親やおじいちゃん、おばあちゃんの面倒を見ようと思っても、雇用もなく、地元に残れる若者は限られた人数だけです。
間伐の遅れたCO2を吸わない森と間伐の進んだCO2を吸う森(グリーンプラス株式会社)
J-VER制度を活用した私たちの最初の取り組みは、「北秋田地域振興事業における上小阿仁村J-VERプロジェクト」(注11)という名前の通り、山村の再生というコベネフィット性を考慮したものでした。森林を整備してJ-VERクレジットができ「1トンいくらです。」、それを買い手が「はい、ありがとう。」で終わったら、これは金融商品を開発販売しているような、ドライな話にすぎません。
私たちは、そのあたりは、ウェットな取り組みをしています。クレジットの買い手となる事業者に、「実際に自分の会社の排出するCO2を吸収する山村にまず来てください」と、働きかけています。
森林が多くて、おじいちゃん、おばあちゃんもたくさんいる。自然環境も残されている。建物も看板もなつかしい。冬に行けばひどい雪にも見舞われたりする。山村の生活者と違って、東京のような都会からの訪れる人の観点で言えば、「日本人として有無を言わさず懐かしい原風景」だと思います。
実際に、これまでのプロジェクトを通じで、数百人の方に、ローカル線乗車、語り部の話、間伐などを山村で体験していただきました。すると、体験された方々は「ここの森でできたクレジット使ってあげたい」って気持ちになるようです。
秋田での活動(グリーンプラス株式会社)
そして、いらしてくださった方々が、その村に泊まり、食事をして、観光する、となると一人数万円のお金を山村に落としていってくださいます。東京の1万円は、山村では2万円くらいに感じます。実はこういう点でも、積み重ねていくうちに山村が元気になっていきます。
私たちは、「1トンいくらでクレジットを販売しています」というビジネスでなく、クレジットの取引量は少量でも、現地の状況をご理解いただいて、長期的な心の通じた関係を育んでいきたいと思い、小さな取り組みを続けてきました。そのひとつひとつが森林再生という大きな成果を生み出しています。そして、山村再生のきっかけとして環境省J-VER制度を活用できることが、この森林吸収クレジットの可能性だと感じています。
―インタビューを終えて―
ヨーロッパで盛り上がっていたカーボン・オフセット・ビジネスを、単なる排出権の売買で終わらせるのではなく、日本に馴染みの深い「植林」を用いて事業化し、森林保全を通じて、山村再生に取り組んでいきたい。そんな飯田先生の夢、すでに夢ではなく現実の事業として動きだしています。考えてみれば、もともと自然界には、炭素循環があり、動物は活動する上で、二酸化炭素を排出し、それを植物が吸収する。そして人間も動物。カーボン・オフセットは、自然から離れてしまった都会の人間が森との絆を意識する機会にもなるでしょう。飯田先生は、「カーボン・オフセット」「クレジット」という言葉を地元の方々に理解してもらい、活動に賛同していただけるまで、一軒一軒、何度も何度も訪ねたそうです。「カーボン・オフセット」という言葉に、地元のおじいさん、おばあさんの顔がみえるのでしょうか、飯田先生の表情がやわらくなっているのが、印象的でした。
インタビュアー 峯岸律子(みねぎしりつこ)
環境コミュニケーション・プランナー。エコをテーマに、人と人、人と技術を繋げるサポートを実践。
技術士(建設部門、日本技術士会倫理委員会)、環境カウンセラー、千葉大学園芸学部非常勤講師。
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